今までの経験があったからできたこと、
conteの開発があったから得られたもの。

 

 

△懐かしい旧社屋 自宅に隣接して昭和45年(1970年)に建てられた旧社屋。その後、8年ごとに3回増築を繰り返しました。大きな機械を入れるときは、隣の杭州飯店さんの駐車場を丸々、お借りするそう。現在も工場としてフル稼働しています。

 さて、モノを作るには、「経験」が必要です。ひろ坊はどんな風に経験を積んできたのでしょう。

第3回 ひろ坊と燕のものづくり

に続き、ひろ坊に色々、尋ねてみました。
 
 ものづくりの業界の人たちはよくOEMをいう言葉を使います。このOEMとはOriginal Equipment Manufactureの略。他社からの依頼に応じて製作すること。権利などは依頼主にあり、型代などの経費も依頼主が持ち、注文したものはもちろん全て買取ですから、リスクのない仕事に見えます。とはいえ、仕事の見通しが立ってくると、作り手の方も、予測で、少し多めに作って、在庫することもあるそうです。

 

 頼まれてもいない在庫を作るのは「注文がなくなるようなことはない“はず” 」という“信頼関係”と、そして“効率”を考えてです。一つのものを作る際、そのモノに合わせて、機械の調整などが必要です。頼まれたものが8時間で作り終えるとします。でも、そのモノを作るのに機械の調整が1時間必要だとします。おそらく数ヶ月後には同じ注文が来るなら、一気に16時間続けて、倍作るとします。2回に分けると、機械の調整は1時間+1時間ですが、一気に作れば1時間です。頼まれてもいないので、お金が入ってくるのは、次回頼まれた時。持ちつ持たれつの付き合いなので、曖昧と言えば曖昧ですが、どちらが得かは、工場の判断次第です。

 

 安定した仕事ですが、ただ、やはり「他人のもの」なのです。自分の子供だけど、すぐに養子に出して、別の苗字を持って、違う育ち方をするわけです。

 

 ひろ坊は漠然と、他者に頼らない、自社のアイテム、いわゆる「ブランド」を作った方がいいのでは、と思うようになったようです。2013年ごろの話で、巷では、ちらりほらりと地場産業の工場や工房のオリジナル品が、インテリア雑誌などにも取り上げられるようになった頃です。ひろ坊の工場は、受け仕事だけでなく、オリジナル品も作っています。油引きは、業界トップのシェアを誇る、かなりニッチは立場ではあります。ですが、この品物。全て販売は問屋さんにお願いしているので、どこで売られているかわからない。プロの厨房で使われるものが多いので、使われている状況を見ることは稀。使われている実感のようなものが、ちと薄いのです。

 

△正式名称「抵抗溶接機」 “点”で着ける溶接機。“スポット溶接、なんて呼ばれます。 直流と交流があるそうで、ひろ坊の工場では、「値段は高いけれど、くっつきがいい直流」を使っているとか。 ひろ坊に聞くと、細かい部分まで教えてくれます。例えばこの溶接は「銅の電極で点圧をかけて挟みこんで電気を流して溶接」だそうです。 作っているのは、ひろ坊のお家で作っている、ロングセラー商品の「水マス」。100ccから5Lの幅広いサイズを作っています。業務用として、問屋さんを通じて、全国のレストランで使われているそうです。

「ブランド」を持つ会社は、企画した商品を作り上げるために、デザインを起こし、製品化のための材料を確保し、さまざまな工場にそれぞれの工程を託し、一つのものに仕上げていきます。

 

 素人目からみれば同じ作業のように見えますが、ひろ坊に聞くと「例えばプレス作業であれば、持っているプレス機の種類や大きさ、そして使用する油のブレンドの割合(なるほど!)も違ったりして、微妙に得意技が違いますし、前後の工程によって、得意技の組合せ方も変わったりもします」ということ。クオリティ重視か、価格重視か、納期重視か、などの工場の選び方で、最終的な売値も変わってきます。安ければいい、早ければいい、というわけではありませんよね。

 

 頼まれた工場も、依頼した会社が何を求めているかを見極めるわけです。「燕は街全体で一つの工場」で様々な工程の工場のバトンリレーでものは出来て行きます。ひろ坊もそのバトンリレーの一つの工場なので、前後にどんな走者(つまり工場)があるか、ある程度、把握できています。同級生も色々な工場に勤めているので、仕事をしていなくても、友達経由で新しい工場を訪ねたりすることもあります。その蓄積が、ブランドを作る際の大きな力になったことは言うまでもありません。

 

 当時、ひろ坊は会社の役員の立場になっていました。社長であるお母さん、専務であるお兄さんは、ひろ坊が遊学から帰ってきた時と同じく「まぁ、好きにしなさい」と、任せてくれたそうです。

 

△りんちゃんは、現場に行くことでアイデアが湧くそうです。作業しているのは現社長のお兄さん。ひろ坊のお家のアイストングを曲げているところ。この作業もひろ坊のお家のバトンリレーでいう「プレス」の作業です。この機械は、現在、主要国内メーカーでは生産していないとか。

 conteを立ち上げ、幾つものアイテムが生まれた今、ひろ坊はブランドを作ったことをこんなふうに言っています。

 

「自社ブランドを作ることで、研究開発的な製造技術のチャレンジが出来たことは、実りの一つです。conteの開発は『出来るかどうかやってみないと分からない』、どの商品も個人的に初めての技術(金型の作り方や製造工程の組み合わせ方)を使った商品ばかりです。うまくいかなかったら金型を捨てることもありますし、思わぬ事態に直面して、四苦八苦してますが……笑」。

 

 「ブランドを作る」ことが「自社の技術の成長」につながったと言うこと。
 もう既に色々なメーカーが作っているステンレスのキッチン用品だけれど、「conte」ならではのものが生まれ続ける秘訣はここにあるのです。

 

 次回は、いよいよ「conte」誕生の話になるか???